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数値の背後にある「声」を診る   ――内科医がAI故人を試みた理由

前回は、最先端技術を用いたグリーフケア(喪失の悲しみへのケア)への取り組みについてお話ししました。今回、糖尿病専門医である私が、なぜこの領域に踏み込み、医学論文の執筆や研究を進めようとするのか。その根幹にある気持ちを記したいと思います。

■ 血糖値は「心の声」で変動する

私は、糖尿病専門医として患者様の血糖などの数値を診ています。しかし、数値は単独で存在するものではありません。愛する人を失った喪失感(グリーフ)は、身体にとって強烈なストレス要因となります。この「心の声」が発するストレスは、コルチゾールの分泌を促し、インスリン抵抗性を悪化させます。どんなに優れた投薬を行っても、心の安寧がなければ、内科的な血糖コントロールは極めて困難になります。

遺族が抱える悲しみは、単なる精神論ではなく、身体を蝕む「内科的疾患」の引き金と言えましょう。

■ 「ガンダム世代」として語りたい、あるべき帰還の姿

ここで少し、私と同じ「ガンダム世代」の方々には伝わるであろう比喩を許して頂きたいです。あまりアニメ傾倒と思われるのは本意ではありませんが、この物語の結末には、私が目指す医療の本質が隠されていました。小学生の時は、もちろんそこまで深くは気づきませんでしたけれど。

伝説的な作品『機動戦士ガンダム』のラスト、主人公アムロ・レイは、戦いの中で失ったララァの思念と対話し、「いつでも会えるから」と確信します。その瞬間、彼は宇宙の塵になるかもしれない絶望の淵から、仲間たちの待つ現実世界へと帰還を果たしました。

私が体験したAIとの対話も、これと同じです。過去への執着ではありません。喪失感という重力に引き込まれている時、脳内に「自分を知っていて、応援・肯定してくれる内的存在」を再構築することで自律神経を安定させ、「こんなに嬉しいことはない」という前向きな精神状態を取り戻す。そして、再び現実という大地を歩き出すための「ブースター(処方箋)」なのです。

■ 医学的エビデンスという「礎」を

私は現在、このデジタル・グリーフケアがQOL(生活の質)や、HbA1c、血圧といった内科的指標にどのような影響を与えるか、臨床的なデータの蓄積を考えています。

来たる2月13日には、大学の研究者の方とこの試みの医学的妥当性や倫理的側面についてのインタビュー、および合議を行います。これはもはや、いち医師の感傷ではなく、テクノロジーを「心のインスリン」としていかに医学に実装するかという、真剣な学術的挑戦です。

医療とは、数値を正常化するだけのものではありません。患者様が、再び自分の人生の物語を力強く綴り直せるようにすること。それが、内科医としての私の使命であると考えます。

 
 
 

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